シオノギファーマ株式会社(以下、シオノギファーマ)は、2020年10月1日にナガセ医薬品株式会社(現:伊丹工場、以下、「伊丹工場」)を子会社に加え、高薬理活性注射剤の開発・製造機能を獲得し、更なるCDMO*1事業の機能強化を行いました。
今回は、伊丹工場の高薬理活性注射剤に関する製造技術の一端を紹介させていただきます。
*1 CDMO:Contract Development and Manufacturing Organization
伊丹工場について
伊丹工場(旧:ナガセ医薬品)は、兵庫県伊丹市を拠点に帝国化学産業株式会社として1938年に設立し、無菌注射剤の開発・製造会社として80年にわたる実績を有しています。設立当時から積み重ねてきた無菌製剤製造技術を基盤として、注射剤・液剤のCDMO事業を展開しています。近年では、抗がん剤を中心とした高薬理活性注射剤の開発・製造に注力しており、開発から商用生産まで、多様なニーズに対応しています。
高薬理活性注射棟の概要
伊丹工場は、2013年2月に高薬理活性対応のバイアル注射液剤製造棟を新設し、更なる製造機能強化のため、2017年12月にバイアル凍結乾燥注射剤製造棟を増築しました。これら高薬理活性注射棟では、日米欧3極・PIC/S GMP*2対応が可能であり、「陰圧アイソレータによる高度な封じ込め」、「シングルユースシステムによる高度な交叉汚染防止」、「無菌アイソレータによる高度な無菌性保証と多機能充填」、「外装洗浄、シュリンクラベル包装による医療従事者への安全性配慮」をコンセプトに、治験薬製造から商用生産まで幅広く対応しています。
*2 PIC/S GMP:Pharmaceutical Inspection Convention and Pharmaceutical Inspection Co-operation Scheme Good
Manufacturing Practice(医薬品査察協定および医薬品査察共同スキーム)
1)高度な封じ込め -コンテインメント設備
高薬理活性注射棟では、薬理活性の高い原薬や活性・毒性データが十分ではない開発初期の原薬秤量作業を陰圧アイソレータ内で行い、さらに、それに続く液調製タンクへの原薬投入作業も閉鎖系で行え、高度な封じ込めを実現しています。
また、凍結乾燥注射剤の充填工程においても、凍結乾燥後に充填部無菌アイソレータが自動で陰圧に制御されることで、凍結乾燥品出庫時の高度な封じ込めを実現しています(詳細は後述)。 これらの封じ込め設備により、ハザードレベル5*3(OEL*4 0.15μg/m3)まで対応が可能です。
*3 高薬理活性原薬の取扱量・飛散性・毒性によってはハザードレベル6にも対応可能
*4 OEL:Occupational Exposure Limit(作業者曝露許容限界)
2)高度な交叉汚染防止 -シングルユースシステム
高薬理活性注射棟では、液調製工程から充填工程まで最新のシングルユースシステム技術を活用しています。シングルユースシステムは、ロット毎の単回使用のため、残留・交叉汚染のリスクを最小限にでき、洗浄バリデーションが不要となり、薬理活性の高い医薬品等では、洗浄作業時の作業員の安全性を確保することも可能です。また、シングルユースシステムは、製造スケールに合わせた液調製用バッグやバッファーバッグ、薬液特性に合わせたろ過滅菌フィルター、充填速度・充填量に合わせた送液チューブ等の適切なシングルユース製品を選定、組み合わせることで、フレキシブルなラインを構築しています。
シングルユースシステムのメリット
・ロット毎の単回使用により、残留・交叉汚染防止
・柔軟な設備設計により、製造スケール・製造方法等の変更に対するフレキシブルな対応
・ステンレス設備の導入と比較してイニシャルコストを削減
・液調製-充填ライン接液部の洗浄・滅菌バリデーションの省略、消耗品交換の省略等によるメンテナンス省略化
・洗浄作業時の作業員に対する安全性確保
3)高度な無菌性保証と多機能充填
高薬理活性注射棟では、注射液剤専用充填ライン(以下、液剤ライン)と凍結乾燥注射剤・注射液剤兼用充填ライン(以下、凍乾ライン)の2ラインを保有しています。両ラインともに、充填部に無菌アイソレータを導入しており、高度な無菌性保証が可能です。
高薬理活性注射剤の製造ラインスペック
|
液剤ライン |
凍乾ライン |
液調製スケール |
5~100L |
5~200L |
充填量 |
0.5~50mL |
0.5~80mL |
充填能力 |
MAX 4,000本/hr |
MAX 4,500本/hr |
対応可能剤形 |
ガラスバイアル/樹脂バイアル |
ガラスバイアル |
バイアル充填一連機(バイアル洗浄・滅菌~薬液充填~凍結乾燥~キャップ巻締め~外装洗浄)
凍乾ラインにおいては、無菌と封じ込めの両機能を有する特殊なアイソレータを導入し、薬液充填、ゴム栓半打栓から凍結乾燥機入庫まではアイソレータ内を陽圧(無菌)制御し、凍結乾燥機出庫からキャップ巻締め、バイアル外装洗浄まではアイソレータ内を陰圧(封じ込め)制御しています。
高度な窒素置換機能
凍乾ラインにおける注射液剤の充填においては、バイアル空間部の残留酸素濃度が1%以下となる高度な窒素置換が可能です(実績値)。また、液剤ラインにおいても残留酸素濃度5%以下の窒素置換が可能です(実績値)。
樹脂バイアルへの無菌充填
注射剤の中にはガラスとの相性が悪く、薬液成分の変性やガラス表面を腐食するような薬剤があり、ガラスバイアルが使用できない注射剤は樹脂バイアルが使用されます。また樹脂バイアルはガラスバイアルよりも軽量であり、落下時に破瓶し難く取り扱い易いことから医療従事者からのニーズも多くあります。しかし、この樹脂バイアルは、これまで無菌的に充填することが難しく、最終滅菌(充填後に高圧蒸気滅菌を実施)することで無菌性を保証しなければならず、熱に不安定な注射剤への適用は困難でした。液剤ラインには、これら課題をクリアできる樹脂バイアルの無菌充填可能です。
4)医療従事者への安全性配慮 -外装洗浄機・シュリンクラベラー包装機
伊丹工場では、高薬理活性注射剤の製造工場として、医療従事者の抗がん剤曝露に対する安全性配慮のための様々な工夫を施しています。
高薬理活性注射棟では、充填工程において、キャップ巻締め後にバイアル表面を精製水(UF水)で洗浄し、エアブローにより除水することで、バイアル外装部に残留する可能性のある薬液を除去しています。さらに、包装工程において、バイアル底面に樹脂製プロテクタを装着し、バイアル全面をシュリンクラベルで覆うことにより、破瓶し難い包装にするとともに万一破瓶した際のガラス片や薬液の飛散防止を行っています。
さらに、物理的衝撃に対する緩衝機能を持たせた包装箱の設計により、輸送時や医療機関での取り扱い時の破瓶防止にもつなげ、日本パッケージコンテスト2016*5(第38回)において、ナガセ医薬品(当時)が設計した5バイアル包装箱が、安全性・利便性への配慮で高評価を得て、医薬品・医療用具包装部門賞を受賞した実績*6もあります。このように製造受託のみならず、医療従事者への安全性・利便性に配慮した製品開発等を含めてトータルサポートいたします。
シオノギファーマは、お客様から信頼される「技術開発型ものづくり企業(CDMO)」となることをミッションとして掲げ、2019年4月1日より事業を開始しました。原薬の製造法開発および製剤処方開発から商用生産に加え、分析法開発や医薬エンジニアリング技術による設備設計サポートなどを含めた「フルレンジサービス」をワンストップでご提供できる体制を整えております。
*5 日本パッケージコンテスト:優れたパッケージとその技術の開発と普及を目的に、公益社団法人 日本包装技術協会の主催により毎年開催される包装に関する国内最大級のコンテスト