表面分析技術は、主に金属や半導体表面の物性評価に用いられ、分析機器は走査型電子顕微鏡(SEM)や電子線マイクロアナライザ(EPMA)、X線光電子分光装置(XPS)、二次イオン質量分析装置(SIMS)をはじめとする多種の分析装置が存在します。
これらの分析法は広く医薬品分析にも用いられており、シオノギファーマ株式会社(以下、シオノギファーマ)では走査型電子顕微鏡(以下、SEMと略す)、電子線マイクロアナライザ(以下、EPMAと略す)及び顕微ユニット付きフーリエ変換赤外分光光度計(以下、顕微FT-IRと略す)の3機種を駆使することで、微小領域の形態観察や組成分析など、R&Dや苦情調査に有用な幅広いソリューションの提供が可能です。
今回、2回シリーズで表面分析の原理、装置、分析事例の紹介を行います。第1回は原理および装置について紹介します。
医薬品と表面分析
固体物質の微小領域を科学的に解析する場合、その形態観察や組成的な情報は非常に有用です。シオノギファーマでは、ミクロな形態観察にはSEM、組成分析にはEPMA、そして有機物質を主体とする試料の構造解析には顕微FT-IRと、3機種を使い分けて下記のような例へのソリューションを提供しています。いずれの分析法も、医薬品の製造条件の最適化を裏付ける表面状態のデータ取得や、設備や品質管理手法の改善となるデータ取得など、医薬品そのものだけではなく、そのプロセスについても評価することが可能です。さらに、微小な異物の構造を同定することにより、その混入原因をつきとめる調査に威力を発揮します。
○ 製剤の処方改良検討時における主薬成分の濃度分布状態
○ 外部滑沢打錠の製法評価時における滑沢剤成分の付着状態
○ 市場クレーム調査における錠剤や包装の表面付着異物の解析および同定
○ 注射製剤中の混入異物の解析および同定
SEM:走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope)
高輝度な電界放出電子銃を搭載し、広い領域から微小領域の高画質観察ができます。
さらに、低真空機能を利用することで、絶縁物の無蒸着観察も可能です。
EPMA:電子線マイクロアナライザ(Electron Probe Micro Analyzer)
電界放出電子銃を搭載し、固体試料表層部の構成元素B(ホウ素)~U(ウラン)までを高精度に自動定性分析できる基本機能に加え、試料の特定線上を特定元素でスキャンする線分析、試料平面領域の元素分布(マッピング分析)の分析を行うことができます。固体物質微小領域(最小径 数μm)の組成分析においては、EPMAは最適な分析装置です。
顕微FT-IR:フーリエ変換赤外分光光度計
(Fourier Transform Infrared Spectroscopy)
豊富なライブラリー(データベース)で樹脂や化学繊維など様々な有機物の構造同定が可能です。さらに赤外顕微鏡を付設したシステムで微小な試料の測定も可能です。
受託サービス
シオノギファーマの表面分析室では、医薬品開発から上市製品までミクロンレベルでの形態観察や組成分析を行います。専門研究者による迅速・正確な分析体制で、お客様のニーズに合わせた受託分析に対応します。
シオノギファーマでは以下の手順で分析を行います。
1.前処理(ろ過捕集)
液中の異物など分析対象物を液体から取出す必要がある場合、ろ過作業を行います。
2.試料の観察
実体顕微鏡で分析対象物の確認を行います。ここでは、形状、物性、色などを確認します。
試料の情報と分析目的から分析方法を選択します。
・繊維状異物 → 人毛・獣毛・化学繊維・植物繊維を判別する → SEM観察と顕微FT-IR分析
・金属様異物 → 金属の種類を判別する → EPMA分析
・樹脂様異物 → 樹脂の種類を判別する → 顕微FT-IR分析
3.試料作製
試料の形状や存在状態および分析目的を考慮し、適切な試料作成を行います。
今までの経験から蓄積されたノウハウにより、分離・割断・分散・はく離などの試料処理を行います。
4.分析
選択した分析方法に対応する分析機器で測定いたします。
得られた結果から分析した物質の本質を同定いたします。
分析事例
医薬品の開発・製造では、様々な場面で形態観察や組成分析が必要となります。その解析手段の1つとして表面分析を用いて研究開発・品質評価・異物調査に対応しております。ここでは、表面観察事例を1件紹介いたします。
表面観察の事例
SEMによりビタミンB1の形態観察を行いました。(A社、B社ともに300倍で撮影)
結晶の大きさは、A社で約10μm~50μmの針状晶.B社で約20μm~100μmの柱状晶でした。
原料メーカによって同じビタミンB1でありながら結晶形態の違いが視覚的に非常によくわかります。
結晶形態の違いは造粒や打錠等の製剤化の工程に影響を与えることが知られていますが、結晶を事前に確認することで、原料ソースの変更時にもスムーズに検討を行うことが可能になりました。
シオノギファーマは、お客様から信頼される 「技術開発型モノづくり企業(CDMO*)」 となることをミッションとして掲げ、2019年4月1日より事業を開始しました。原薬の製造法開発および製剤処方開発から商用生産に加え、分析法開発や医薬エンジニアリング技術による設備設計サポートなどを含めた 「フルレンジサービス」 をワンストップでご提供できる体制を整えております。
*CDMO:Contract Development Manufacturing Organization