抗がん剤を取り扱う施設の医療従事者の方々、更には清掃作業員の方々は、抗がん剤の職業性曝露を受ける危険性があります。何故そのような危険性があるのでしょうか?
今回のNews Letterでは、「抗がん剤曝露調査の必要性について」を紹介いたします。
抗がん剤曝露調査の背景
1)抗がん剤の職業性曝露の危険性
抗がん剤はがん化学療法を行う患者さまにとって、なくてはならないものですが、制がん作用があるのと同時に変異原性、発がん性、催奇形性を有する物質が数多く、医療従事者の方々は、このような性質を持つ抗がん剤を日常的に取り扱うことで、長期間にわたって抗がん剤の曝露を受け続ける潜在的なリスクがあります。
変異原性
変異原生とはDNAや染色体に異常をもたらし、突然変異を引き起こさせる性質のことであり、細胞がん化を誘発する因子として知られています。
発がん性
正常な細胞を癌に変化させる性質のこと。発がん性が認められている種類は多岐にわたります。
催奇形性
妊娠中の女性が体内に摂取された際に、胎児に奇形を引き起こす性質のこと。
2)抗がん剤曝露調査法の区分と種類
曝露調査としては、「環境的モニタリング」と「生物学的モニタリング」の2種類(表1)に分けられ、測定の目的によって検体の採取方法が変わります。
表1 抗がん剤曝露調査法の区分と種類
3)抗がん剤を摂取してしまう経路
医療従事者の方々にとって問題になるのは、抗がん剤が体内へ摂取される場面です。その摂取経路として以下の4つが考えられます。
① 吸収:抗がん剤が直接皮膚や粘膜に付着し吸収される。
② 注入:抗がん剤の調製、混合時に注射針が刺さる。
③ 吸入:エアロゾル化した抗がん剤を吸入する。
④ 経口摂取:抗がん剤が付着した手で飲食を行うことで間接的に摂取する。
①~④に示される摂取経路では、以下に示す取り扱い操作が想定されますが、十分に注意を払う必要があります。がん薬物療法における職業性曝露対策ガイドラインでは、ハザーダスドラッグ曝露の機会として、以下のような事例が紹介されています。
(参照:がん薬物療法における職業性曝露対策ガイドライン P.31 第2章 背景知識と推奨・解説)
- 調剤したバイアルから針を抜き差しするとき
- 針や注射器を使用して抗がん剤を移動させるとき
- 抗がん剤のアンプルをカットするとき
- 抗がん剤の入っている注射器から空気を排出するとき
- 抗がん剤を投与するとき
- 輸液バッグに針を突き刺したり、チューブを交換するとき
- 輸液ラインや接続部から薬液が漏れてしまったとき
- 薬物や汚染した物品の廃棄作業を行うとき
- 48時間以内に治療を受けた患者さんの嘔吐物や血液、排せつ物などを取り扱うとき
- 抗がん剤による汚染場所を清掃するとき
4)抗がん剤モニタリングの重要性
がん薬物療法における暴露対策合同ライン作成委員の先生からも、モニタリングの重要性を提言いただいています。
がん薬物療法における職業性曝露対策ガイドラインでは、環境モニタリングによって曝露源を特定し対処すれば、ハザーダスドラッグの曝露を減少し、ヒトへの害を減少させる有用な方法となる可能性があり、環境曝露と人体への臨床的影響及び環境モニタリングの手法について明確なデータがないことから定期的な環境モニタリングを行うことが推奨されています。
ガイドライン作成委員の先生からのモニタリングの重要性のご提言は以下のとおりです。
がん薬物療法における曝露対策合同ガイドライン作成委員のコメント
次回は、シオノギファーマが取り組む「抗がん剤曝露調査」について紹介いたします。