シオノギファーマ株式会社
シオノギファーマはコンピューターシミュレーション技術を活用し、実験期間や製造設備の設計期間などを大幅に短縮することで、医薬品開発のスピードアップとコスト削減を図っております。今回はこの技術の1つであるCFD(Computational Fluid Dynamics)について実例を交えて紹介します。CFDは津波被害予測や車・飛行機デザインでの空力計算にも活用され、家電では英国ダイソン社の羽の無い扇風機も活用されている技術*1*2*3です。
1つ目は、熱交換器のCFDによる解析により、設計期間と運転条件の検討期間を短縮した例を紹介します。
今回の実例では、温水で薬物を溶解させた状態で無菌ろ過しますが、薬物が熱に対して不安定なため、無菌ろ過後に熱交換器を使用して速やかに冷却する必要があります。加えて、30℃以下に冷却すると薬物が結晶化し、配管を閉塞させますので、30℃以下にならないように、熱交換器の設計および製造条件を最適化する必要があります。これらを両立させるために、CFDを活用しています。
図1に3Dモデル化した熱交換器の外観、図2に配管断面部における薬物溶液および冷媒の温度分布のシミュレーション結果を示しています。冷媒温度、薬液速度、配管形状などを最適化することで、上記課題を解決できたことから、サニタリ仕様の専用熱交換器および運転条件を設計できました。その後、実装された熱交換器において、シミュレーションの結果が再現され、不具合や追加の改造工事も発生しませんでした。本技術を活用することにより、薬物の分解を抑制する製造条件を見出し、品質と収率を向上させるだけでなく、熱交換器の設計期間と運転条件の検討期間を数箇月短縮することができました。
図1 3Dモデル化した熱交換器の外観
図2 配管断面部における薬物溶液および冷媒の温度分布のシミュレーション結果
2つ目は、シオノギファーマが注力しているフロー合成の一つである、光反応への適用事例について紹介します。
光反応は光エネルギーを反応基質に与え、反応を進行させるもので、従来の熱化学と比較してエネルギー消費が少なく、光反応ならではの特殊反応が行えるなどのメリットがあり、近年注目されています。シオノギファーマでは光反応装置の開発にもCFD技術を活用しておりますが、他の物理現象、例えば伝熱、化学反応などと組み合わせて解析する連成解析も行っています。
図3は3Dモデル化した光反応機の外観、図4は光反応機内部を流れる反応液の速度分布のシミュレーション結果を示しています。光反応の特性上、反応液に均一に光を照射させるためには反応液の速度分布が均一であることが求められます。
図4の左図は反応機下部の左側のノズルから反応液を流入させた結果です。この結果から、反応液の速度が速い部分と遅い部分があり、乱れた状態にあることから、光の照射量が均一にならず、反応率にばらつきが生じることが予想されました。一方、図4の右図は反応液を流入させるノズル形状や位置、運転条件を最適化することで、反応液の速度を均一にすることができました。この結果を参考に、専用の光反応機を設計しました。その後、実装された光反応装置(図5参照)において、シミュレーションの結果が再現され、熱交換器の場合と同様に、設計期間と運転条件の検討期間を数箇月短縮することができ、本技術が有用であることを示すことができました。
図3 3Dモデル化した光反応機の外観
図4 反応液の速度分布のシミュレーション結果
図5 徳島工場に設置された光反応ユニット(左:全体,右:一部拡大)
シオノギファーマは、お客様から信頼される 「技術開発型モノづくり企業(CDMO*4)」 となることをミッションとして掲げ、2019年4月1日より事業を開始しました。原薬の製造法開発および製剤処方開発から商用生産に加え、分析法開発や医薬エンジニアリング技術による設備設計サポートなどを含めた 「フルレンジサービス」 をワンストップでご提供できる体制を整えております。
お客様のご要望に応じた受託サービスやソリューションサービスの提供を行っていますのでお気軽にご相談ください。
*1 [出典] Blade less FAN ANSYS Advantage volume Ⅳ issue2 2010
*2 [出典]VOF法の大規模数値流体解析による津波波力の予測 ながれ 第32巻 第6号 2013年 日本流体力学会
*3 [出典]自動車と流体力学 車体周り流れと空力特性 ながれ 第23巻 第6号 2004年 日本流体力学会
*4 CDMO:Contract Development Manufacturing Organization